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異文化コミュニケーション研究科

院生×教員対談


専門知を身に付け、
「行動する研究者」に!
立教大学大学院異文化コミュニケーョン研究科に進学した院生が、どのような想いを抱き、何を学んでいるのか。
領域横断的な学び、研究環境などもあわせて、指導教員がインタビューで深掘りします。


PROFILE

師岡 淳也

立教大学異文化コミュニケーション研究科 教授

専門はレトリックの理論と歴史、および主に人文学的手法を用いたレトリックの批判的分析。

川野 優希

立教大学異文化コミュニケーション研究科
異文化コミュニケーション専攻 博士後期課程1年

修士論文のテーマは『スピーチ・プレゼンテーション演習における聴く力を育成するプログラムに関する実践研究』



なぜ異文化コミュニケーション研究科を選んだのか

師岡:川野さんは7年間の社会人経験を経て、大学院に進学されましたね。本研究科に入学されるまでの経緯を簡単に教えてもらえますか?
川野:立命館アジア太平洋大学を卒業後、約3年間広告業界で法人営業を経験しました。国際色豊かな学部時代の経験から、「やっぱり世界と関わりたい」という気持ちが徐々に強くなり、退職を決意しました。その後、JICA(独立行政法人国際協力機構)の青年海外協力隊(現:JICA海外協力隊)に参加して3年間、アフリカのルワンダ共和国で国際支援活動に打ち込みました。ルワンダでの生活は不便ではありましたが、地域のコミュニティがとても強く、外部の人間である私にも温かく手を差し伸べてくれる文化がありました。帰国が近づくにつれ、「私がルワンダで感じた居心地の良さを、日本にいる外国にルーツをもつ人々は感じているのだろうか?」という疑問が生まれ、帰国後は地元である大分県内の専門学校に就職し、主に外国人留学生を対象とした日本語教育や就職支援などを担当しました。その中で少しずつコミュニケーション教育に興味を持ち始め、大学院進学を決意しました。

師岡:これまでの経歴をお聞きすると、大学院では国際協力や日本語教育を専攻してもよいように思いますが、川野さんはコミュニケーション研究、なかでもコミュニケーション教育を中心に研究をしていますよね。なぜコミュニケーションを専門的に学ぼうと思われたのでしょうか?
川野:改めて思い返してみると、学部時代に米国人留学生から言われた「なぜ日本人は自分の意見を言わないの?」という問いかけが、ずっと心に引っかかっていたのだと思います。「自分の意見を言わないと、グループとしてより良いものは作れない」「日本人は何を考えているかわかりづらい」とも言われました。この問いかけを地元の専門学校で留学生と日本人学生合同のプレゼンテーション演習を指導している際に思い起こしました。授業中、終始留学生が(日本語は学習途中でありながらも)たくさん意見を投げかけるのに対し、日本人学生はあまり発言しない。その現象を目の当たりにして、「なぜだろう?」と考えてみたのですが、ひとりで考えても答えが出なくて。そこでこのメカニズムを解明したいと思ったのがキッカケとなり、大学院であればコミュニケーションの構造や社会的・教育的背景、コミュニケーションに関する文化的摩擦の要因などさまざまな視点を学問的に学ぶことができると考えました。
師岡:コミュニケーションを専門的に学ぶことのできる大学院は他にもあったと思いますが、異文化コミュニケーション研究科を選んだ理由は何でしょうか?
川野:はい。異文化コミュニケーション研究科を選んだ決め手は、4領域を横断的に学べるからです。私自身が今までの経験として、日本語教育や多文化共生社会づくり、国際支援に関わってきたことに加え、進学時にもっとも興味があったのがコミュニケーション教育でした。自分の経験を活かしつつ、それらを包括的に学べて、さまざまな領域の知見を深められるのはこの研究科しかない、と思いました。将来的にも、コミュニケーション研究を主軸としながら、領域横断的に様々な分野と関わりを持ちたいと考えていたので、それぞれの分野を深掘りしながらも複数の領域を学びたい。それならココだ!と思いました。
師岡:大学院に入学した段階から専攻する分野をひとつにしぼるよりも、コミュニケーション研究を軸にしながら、いろいろな領域を学べることが魅力だった?
川野:そうですね。そして、「それらはきっとつながっているだろう」と直感的に思っていました。

領域横断的な学び

師岡:実際に入学して3年目。領域横断的な学びに対する理解に変化はありましたか?
川野:いい意味で変わっていません。各領域の先生方からの指導を通して専門的な知識を深めることができています。加えて私のいちばんの関心であるコミュニケーション教育、とくにスピーチやプレゼンテーション教育について領域を横断しながら広い視野でも学べますし、深く掘り下げて学ぶこともできる。しかも、学んだ知識がそれぞれ根幹部分ではつながっていることを強く感じています。
師岡:どの授業がとくに印象に残っていますか?
川野:小山亘先生の「異文化コミュニケーション特殊講義C」と石黒武人先生の「異文化コミュニケーション特殊講義A」は記憶に新しく、とくに印象に残っています。振り返ってみれば、進学前や修士論文を書いていた頃の私は、とてもスポット的な考え方をしていました。一教室の中の一場面、限定された場で起きるやりとりなどのミクロな視点でしか、コミュニケーションを捉えられていなかったんです。でも、後期課程に進学して先生方の授業や研究指導を受けながら考えてみると、スポットで起きるさまざまなコミュニケーション場面にももっと大きなマクロな要因、例えば文化的背景や教育的背景、ジェンダーの問題など、いろいろな要因が影響している。ミクロとマクロが互いに影響を与え合う、その大枠のマクロの部分や両者の繋がりをこの2つの授業から学びましたし、それによって現在のスピーチやプレゼンテーションを含むコミュニケーション教育の一場面で起きている出来事も腑に落ちてきました。コミュニケーション教育に興味を持ったきっかけである「なぜ、日本人は意見を言わないのか」という最初の問いを以前より少し広い視野で見られるようになったんです。加えて、池田伸子先生の「言語教育理論B」では教育工学を取り入れた実践的な教育手法を模索する授業だったので、そういったマクロな視点を考慮した上で、実際の教育現場でどのように実践していくかを具体的に学ぶことができました。

師岡:池田先生は言語コミュニケーション研究領域のなかでも外国語教育工学、日本語教育が専門分野ですよね。また、異文化コミュニケーション研究領域と一口にいっても、組織における異文化間ディスコースを研究している石黒先生と言語人類学や記号論に軸足を置いている小山先生とでは、コミュニケーションの問題へのアプローチが随分と異なります。それぞれの専門分野や研究テーマは異なりますが、授業を受けていて共通するものを感じますか?
川野:そうですね。先生によって視点やアプローチは異なるところもありますが、それぞれに私が興味を持っているコミュニケーション教育とも深く関わっている部分もあり、新しいアプローチや分析手法を知る手がかりになっています。他にも、前期課程の時に履修したグローバル・コミュニケーション領域の授業を担当されている日下部尚徳先生は貧困解決、石井正子先生は紛争解決を主要な研究テーマにされています。私が研究している日本のスピーチ教育とは一見異なるように見えますが、どの分野のどの先生方も「相手がいて、自分がいる。その関係性があってコミュニケーションが成り立つ」といったコミュニケーションにおける関係性を考慮しているので、そういった共通点はとても重要なポイントだと感じています。

教員のサポート、院生とのつながり

師岡:研究環境については、どのように感じていますか?例えば、院生同士のつながりはいかがですか?
川野:今、後期課程の学生8人と院生室を共有しているんですが、研究科が4領域あることもあって、一人ひとりが取り組んでいる研究内容も多岐にわたり、お互いの研究について話すことがとても良い刺激になっています。雑談することも多いですし、理論や手法などの研究の具体的な話をしたり、「今ここで行き詰まっているんだよね」と相談しあったり。こうした会話の一つひとつが励みにもなるし、勉強にもなる。院生仲間からポジティブな刺激を受けているなぁと思うことがとても多いです。
師岡:川野さんが入学されたのは2021年4月ですから、コロナ禍の真っ最中でしたね。最初の1年半は地元からオンラインで授業を受けていましたが、対面授業が再開してから、周りの学生との関係も変わりましたか。
川野:はい。オンラインでは院生同士が個別に雑談する機会があまりなかったため、つながりをつくるのが難しかったのですが、対面授業になってからは院生室に人が集い、そこから会話が自然に発生して、お互いのことをよく知るようになりました。前期課程と後期課程の院生が同じラウンジを共有しているので、前期の院生から後期の院生に対して修士論文や研究について質問する光景もよく見かけるようになりました。

師岡:対面授業になってから、研究への取り組み方や情報共有の機会が随分変わった?
川野:私はすごく変わりました。授業に対しては、同じ授業を履修する院生同士で勉強会を開き、授業で扱う文献の読み合わせをしながら議論をしたり。研究に対しても、互いに興味のあるテーマが見つかれば共同研究してみようという話も出始め、前期・後期関係なく、互いに切磋琢磨できているように感じます。
師岡:横のつながりもそうだし、博士前期・後期課程の学生同士の縦のつながりができている。
川野:そうですね。加えて、異文化コミュニケーション研究科に所属する先生方とのコミュニケーションも増えました。授業の内容や研究に対して疑問や相談があれば、先生方からそれぞれの視点でアドバイスをいただけるので贅沢だなといつも感じています。
師岡:授業の前後の雑談、あるいは院生研究室と教員の個人研究室が近いからバッタリ出くわす、両方のパターンがありますか?
川野:両方あります。授業の前後はもちろん、研究棟でバッタリ出くわした時には、「今、研究のこんな点で壁にぶつかっています」と話すと、時間を取って先生方の研究室で相談に乗ってくれることもあります。
師岡:指導教員以外の先生方とはどんな関わりがありますか?
川野:私に日本語教育や国際支援の経験があるため、立教大学の日本語短期プログラムで留学生に日本語を教える機会をいただいたり、TA(ティーチングアシスタント)をしていた国際協力に関する学部の授業でも、JICAの経験を話す時間を設けていただいたり、学部主催のシンポジウムで登壇させてもらったり。それぞれの領域の先生方から今後に活かせる機会をたくさんいただき、感謝しています。
師岡:日本語短期プログラム、シンポジウム、学部授業でのTA経験……多彩な機会が生まれているわけですね。今後、博士論文を見据えて、どんなことを研究したいですか?
川野:大きく2つあります。1つは、スピーチやプレゼンテーションの授業を受けた学生がより良く社会と関わっていけるようにスピーチ教育の現状の課題や可能性を突き詰めて考えていくこと。もう1つは、聴き手に焦点を当てたコミュニケーションを探求することです。私自身も院に進学する前は、コミュニケーションと言うと話し手にばかり焦点を当てていたんですが、コミュニケーションにおける関係性や双方向性を考えた際には、受け手(聴き手)の役割や責任もとても重要だと考えるようになったので、良い聴き手を育成する教育手法についても考察を深めていきたいです。

修了後のキャリア

師岡:最後に、博士後期課程修了後に目指すキャリアについて聞かせていただけますか?
川野:いちばんの目標は、研究者として日本の高等教育機関におけるコミュニケーションの教育や研究に携わることです。また、日本語教育や国際支援にも興味があるので、大学で職を得る以外にもプラスαとして地元の多文化共生社会づくりや国際協力活動にも関わっていきたいです。欲張りかもしれませんが、マルチに活動したいと思っています。
師岡:この研究科が養成を目指しているのは、「行動する研究者」です。研究はもちろん重要ですが、研究知見を活かして実践することも重視しています。川野さんは研究で得た専門知を日本語教育や多文化共生社会づくりにどのように活かせるとお考えですか? 
川野:以前は「これでいいのかな」「他の方法もあるんじゃないのかな」という狭い範囲で“なんとなく”やっていた部分が多かったのですが、大学院でさまざまな理論や研究手法、教授法などを学ぶことで、複眼的な視点で物事をとらえながら客観的に話せる場面が増えてきたと思います。質の面でも、ただ単に「教えればいい」ではなく、学んだ理論や大学院の授業で常に培われている批判的に考える力を今後の実践に取り入れながら、研究科が目指す「行動する研究者」を体現していきたいと思います。
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